羽田電器産業 ステレオ事業部

主に80年代のオーディオを楽しんでいます

レコード針のお話

最初は身内のネタ公開で始めたブログでありますが最近はアナログビギナーの方にもご訪問頂いてます

そういえばベテランは知ってるだろうと端折って言葉が足りない記事も多かったと思います

今回はなるべく写真を交えアナログビギナーにレコード再生の奥深さをちょびっとでも伝えたいと思います

 

レコード針とは?

f:id:limited_JunkRoom:20220128172525j:plain

一般的に丸で囲った部分を「針」と呼ぶことが多いです
針が折れたなんて表現はこの銀色の棒が折れたことを示すことがほとんどです

それで間違いではないしベテランでも「針が折れた(泣」と言うときはこの銀色の棒が折れたことを言います

では正式名

f:id:limited_JunkRoom:20220128173237j:plain

DENON公式HPより

カンチレバーと呼ぶ部品であります

この図で言う「ダイヤモンドチップ」がレコードから振動を拾う「針」となります

針先、スタイラスチップ、ダイヤモンドチップなど呼び名は色々です

 

ムク針と接合針

ムク針=無垢針
ダイヤモンド針が実用化された時は無垢針でした

f:id:limited_JunkRoom:20220128181812j:plain

オルトフォン MC10MK2

無垢針の写真です
ムク、無垢、ソリッドダイヤ、ブロックダイヤなどと呼ばれます

ムク針でも超高価な訳ではないのですがレコード針超大量生産時代になり加工性が良く更に安価な接合針が登場します

 

接合針

f:id:limited_JunkRoom:20220129151217j:plain

audio-technica AT-E30

チタンなどの金属にダイヤチップを接着し土台ごと研磨して作ります
接合針、ボンディングチップなどと呼ばれます

安価にできますが難点は土台が金属なので重い事、後述しますが針は軽くなくてはいけないのです

f:id:limited_JunkRoom:20220129151733j:plain

DENON DL-65

接合の土台が錆びてます、文献によると接合針の土台はチタンとされてる事が多いのですがチタンは錆びません

ここまで錆びると鉄系金属かも知れません
すると益々重くなりますね

並木宝石様によれば最初は鉄の土台、あとからチタンの土台が開発されたとありますがDL-65はそんなに古くない、接合でもグレードでチタンと鉄が使い分けられていたのかしら

 

針先形状

丸針、楕円針、ラインコンタクト、シバタ、マイクロリッジなど
先っぽの形状です

f:id:limited_JunkRoom:20220129154759j:plain

SHURE M44G

丸針
例は細かく言うと接合の丸針

円錐の断面がまん丸

丸で問題は無いのですが溝を進むとき左右の接点が微妙にズレるなどの理由で楕円針に進化します

 

f:id:limited_JunkRoom:20220129155421j:plain

オルトフォン MC-20MK2

楕円針

例は細かく言うと角柱ブロック楕円針

楕円に研磨しています

楕円針にもグレードがあってこれは本物

なんちゃって楕円針もあるのです

f:id:limited_JunkRoom:20220129155930j:plain

audio-technica AT-E30

丸針の前後を研磨し楕円にする手法

研磨度合いによるんだろうけどこの針先見る限り接触面は丸針とあまり変わらない気がする

 

f:id:limited_JunkRoom:20220129160252j:plain

audio-technica AT33VTG

マイクロリッジ針

もはや小さすぎて説明用の写真を個人で撮るのは不可能なので

並木宝石様から画像お借りしました

f:id:limited_JunkRoom:20220129160939j:plain

接触部が薄いヘラ状なので摩耗しても太さが変わらず長寿命
ちなみにAT33VTGのダイヤは0.07㎜角
髪の毛より細い
よくこんな形状に研磨できるもんだ

他、シバタ、ラインコンタクト、ファインラインなど色々な形状があります基本的に楕円針を進化させた物とカッター針に類似させたものに分類されます

 

摩耗

f:id:limited_JunkRoom:20220129162234j:plain

technics EPC-P30

先の部分が摩耗し段差ができています
また摩耗個所は面が出ています

f:id:limited_JunkRoom:20220129162420j:plain

technics EPC-H25

極端な段差は無いけど面が出てる

f:id:limited_JunkRoom:20220129162637j:plain

Technics EPC-P310MC

悲しいかなP310も減る

テクニクスばかり出したけどテクニクスが悪いんじゃなくて沢山売れるからサンプルが多くなります

 

チップ落ち

読んでお分かりの様にダイヤチップだけ落ちる事故

f:id:limited_JunkRoom:20220129163644j:plain

Pioneer PC-3MC

もとは接合楕円針が付いていたけどここまで捥げたら接合も無垢も関係ない

 

f:id:limited_JunkRoom:20220129163911j:plain

Technics EPC-P202C
の下位互換EPS-P22

接合の土台だけ残ってダイヤチップだけ無くなってます

f:id:limited_JunkRoom:20220129164100j:plain

もとはこんな感じ

 

f:id:limited_JunkRoom:20220129164345j:plain

empire 4000D1

世にも珍しい無垢針の先折れ

 

チップ落ちの場合気が付かずに盤に乗せると針先が滑ってトレースしません

例外もありチップ落ちした土台に棘のような出っ張りがあるとトレースしちゃうケースもあります、この場合ものすごく歪んだ音になるので容易に判別できます

確認方法は指でそっと撫でます

明らかに尖った感触があればOK
なんか出っ張りはあるけど「するっ」とした感触であればチップ落ちになってます

 

針先実効質量

レコード再生は言い方を変えるとレコードの溝で針を揺する行為になります
20kHzでは1秒間に2万回も揺すられる、音声信号では他の周波数も入るので複雑な波形をトレースしなくてはなりません

なので振動系は軽くする必要があります

質量で一番効くのは針先

直接揺すられますから

もちろんコイル、マグネットなども軽い方が良いのですがテコの原理が働くので針先ほどは効きません

以下の写真、マイクロスコープの最大倍率固定で針先のフォーカスしているので大体の大きさの比較はできます

f:id:limited_JunkRoom:20220130133753j:plain

SHUER M44G

かなり大きいですね
また接合土台がとても大きく仮にチタンだとしても重いと感じます

 

f:id:limited_JunkRoom:20220130134140j:plain

DENON DL-103

根本は0.2㎜角

M44Gより小さく、また無垢針なので軽いです

 

f:id:limited_JunkRoom:20220130134434j:plain

DENON DL-301

根本は0.07×0.14㎜

ガクンと小さくなりました

 

f:id:limited_JunkRoom:20220130134941j:plain

DENON DL-304

公式ソースで針先のスペックは得られませんでしたが0.07×0.1㎜との情報もあったけど正角柱に見えます

小さいですね、最小サイズに迫ります
スペックが判明してる一番小さいのがDL-1000の0.6㎜角

相手がレコードなのでこれ以上小さくすると曲率半径も小さくなって底を擦っちゃいますからここら辺が最小

けっこう大きな差でしょ?

これを高速で振動させるのですからこれだけ違えば全然違う音質になるのは想像がつくのではないでしょうか

もちろんロースペックの針でも歴史的名機、システム全体とのマッチングで良い音を出すことはありますが基本は軽い針がいいのです

針圧じゃないですよ、針そのものの重量の事です

 

長くなりました、言葉が足りずに伝わらないこと、間違った言い回しが多々あると思いますがアナログビギナーにたった針先でも多種多様で「安くても十分な音」もあるけどそれだけじゃなくて「コストに見合った音」もあるんだよと写真で伝えたかったのであります

 

おしまい

 

 

別館

limited-junkroom-mobility.hateblo.jp